多様な子どもたちが対話と物語を共に楽しむTRPGの世界
金子総合研究所/東京学芸大学 加藤 浩平
*このゲームの内容は、科学研究費(18K13213,23K02590)の研究成果を使用しています。
■はじめに――TRPGが子どもたちのコミュニケーションを育んでいく
筆者は現在、自閉スペクトラム症(ASD)などの発達障害のある10代~20代の子ども・青年たちを主な対象に、彼らが同年代の仲間とのやり取りを楽しみながら、コミュニケーションを促進していく小集団ベースの余暇活動支援についての研究と実践に取り組んでいます。本書『ソウルキーパーズ』も、それらの研究を進める中で、発達障害の有無や程度に関係なく思春期や思春期以降の子ども・若者たちを含めた多様な集団で、気軽に楽しんで貰えるTRPGを作りたいという経緯で、共著者の保田氏と共に制作しました。
ASDは、医学的な診断基準では、社会的コミュニケーションの質的困難と常同行動・限定的興味(いわゆる「こだわり」)という2つの特徴を持つ発達障害の一種とされています。しかし「ASDのある人=コミュニケーションができない」ということでは決してありませんし、こだわりについても病的な問題行動ではなく、近年は「特別な興味(special interests)」として、フラット(中立的)もしくは「強み」として捉える考えも広まりつつあります(藤野,2021)。
またASDの特性は連続体(スペクトラム)であり、特別な支援の不要な人たちまで広く含めれば、人口の約10%の人には多少なりのASDの特性があるとも言われています(本田,2013)。ASDやその傾向のある子どもたちは、いわゆる定型発達と言われる多数派の子たちとは異なる認知・感覚特性を有しており、そのために、学校生活や社会の中で他の人たちと同じように振る舞うことにストレスを感じたり、対人関係の面で悩んでいたりしています。同時にその「困り」を周囲に理解されずに「わがまま」と思われていたり、学校などで叱責の対象となったり、結果として本人の自尊感情が低下して、集団への不適応や不登校などのいわゆる「二次障害」をきたすケースも少なくありません(石崎,2017)。
筆者がTRPGなどの余暇活動の中で出会う子どもたちも、何かを学ぶことが抜群に好きだったり、海洋生物や電車や歴史、ゲームやアニメについて専門家顔負けに詳しかったり、イラストやアクセサリーを作るのが上手だったり……と、個々に素敵な強みや持ち味を持ついっぽう、学校などでの対人関係やコミュニケーションの面で悩んでいたりします(同年代の友だちグループに入れない、知らないうちにクラスメイトと険悪になってしまう、自身のコミュニケーションに自信が持てない、など)。「どうせ私は『コミュ障』だから…」と自虐的に語る子もいて、そんな彼ら彼女らの言葉を聴くと辛い気持ちになります。
筆者らが取り組む余暇活動は、TRPGなどのコミュニケーションや対話をベースにした小集団活動です。TRPG以外の活動も実践していますが(加藤,2021a)、活動に共通するコンセプトは、「『うまく話すこと』より『楽しく話すこと』」であり、子どもたちのモチベーションや興味・関心を大切にしたコミュニケーション体験という面で、従来の特別支援教育などの場で主に取り組まれている「ソーシャルスキルトレーニング(SST)」などの訓練的なコミュニケーション支援とは本質的に異なる活動であると言えます。
■事例紹介――TRPG活動を通じての子どもたちの変化
TRPGは、参加者同士がコミュニケーションと想像力を駆使して一緒に物語を楽しむゲームであり、それだけ聞くと、ASDのある子どもたちには不向きな活動と想像される人も多いですが、筆者らが関わる子どもたちは、TRPG活動の中で笑い合い、積極的にコミュニケーションを楽しんでくれています。中にはゲームマスター(GM)として活躍している子もいます(Kato, 2019)。
ここで、筆者がこれまでTRPGを通じてかかわってきた子どもや若者たちが、活動の中でどう変化していったのか(言い換えれば、TRPG活動が彼ら彼女らにとって、どう新たな自分を発見する場となっていたのか)、エピソードを例に紹介したいと思います。なお、紹介する事例は本人およびご家族に許可を得ていますが、個人情報保護の観点から、複数の事例を組み合わせて紹介しています。
【事例1】
ヨシオさん(仮名)は、公立中学に通う中学2年(当時)の男の子。学校の集団活動が苦手で不登校の状態でした。TRPGに参加した時も、
最初は皆と同じテーブルに座れず、離れた席でキャラクターを作成し、活動中もほぼ無言でした。しかし、ゲームを進める中で、身を挺して他のキャラクターを守って戦う「特技」を持つ戦士のキャラクターとして活躍し、同時に自分に合った方法で他の参加者とも関わるようになっていきました。そして、いつの間にかクールにコミカルな行動をして周囲を笑わせる存在になっていました。
活動後のインタビューでは、「TRPGは『役割』が決まっていたので行動し易かった。途中からその『役割』以外のことをするのも楽しかった」「集団の中で自分にはどんな役割が向いているかを学ぶ機会にもなった」と話してくれました。中学校卒業後は高校・大学へ進学し、その後もボードゲームやTRPGを趣味として続けています。
【事例2】
メイコさん(仮名)は、高校1年(当時)の女の子。クラスの女子グループに馴染めない、話したいことが相手にうまく伝わらないなどの悩みがありました。TRPG活動も、最初は険しい表情で「特にいいです」「任せます」としか喋っていなかったのですが、メイコさんのキャラクターは治療魔法のスキルを持っており、負傷した他の参加者のキャラクターを治療するたびに「ありがとう!」「助かる!」といった感謝の言葉を貰い、そのうちにだんだんと表情も和らぎ、いつの間にか他のキャラクターとの会話を楽しんだり笑顔でツッコミを入れたりするようになっていました。
活動後のインタビューでは、「TRPGのメンバーは話が合わない人もいるけど『仲間』という感じで(学校で感じる)『ぼっち』な感じはなかった」「学校で友だちと話す話題が増えた」「最近会話するのが楽しい。自分の会話で何かが変わったような気がする」と笑顔で話してくれた。メイコさんはその後、これまで「自分には無理」と思っていたアルバイトに挑戦するなど、自分のペースで生活の幅を広げています。
■TRPG体験を通じて起きる子どもたちの変化の背景にあるもの
子どもたちがTRPGを通じて主体的にコミュニケーション楽しめるようになっていく背景として、TRPG独自の「『柔らかい枠組み』の中での自由な行動選択」、「ルールや物語で明確化された役割設定」、「表現の幅を広げる『キャラクター』の存在」、「キャラクターを通して形成される客観的な視点」が寄与していると考えています(加藤,2021b)。これら個々の詳細は別稿に委ね、本稿では、その内の「キャラクター」を介した活動について触れたいと思います。
TRPG活動では、行動するのは本人(プレイヤー)ではなくキャラクターであり、もしキャラクターが行動を失敗しても、それはプレイヤーのカトウさん自身の失敗ではなく、物語上のカトウ君のキャラクターの失敗です。そういった「ワンクッション」のある関わりの形が、参加者の心的な安全を保障し、安心してトライ&エラーができる構造になっていると言えます。「ゲーム中、(キャラクターの)行動が失敗したこともそれはそれで楽しかった」という物語の中での失敗そのものを楽しむようになったコメントをくれた子もいます(加藤ら,2016)。
また、TRPGのキャラクターとプレイヤーは違う存在であることも重要な点です。20代の青年が10歳の魔法少女のキャラクターをやることもできるし、17歳の女の子が50代のイケオジのハンターをやることもできます。
私たちは普段の社会生活の中で役割や立場に縛られていますが、それらの縛りがなく、かつ安心・安全な環境で「やりたい」と思うことに挑戦できる物語世界がTRPGの中にはあります。筆者が関わる子どもたちの中には「キャラクターだから物語の中で思い切った行動が試せる」、「自分がやりたいと思っていたことがキャラクターを通して表現できる」といった感想をくれる子もいます。最近では、VR世界でアバターを用いたASDのある人同士のコミュニティが注目を集めています(池上,2017)。TRPGのキャラクターも、他者との関わりや表現の選択肢を広げるツールとしての「アバター」になっているといえるでしょう。
さらに、TRPGの物語が進むにつれて、キャラクターの設定にプレイヤーの性格や考え方が反映されてきて、同時にキャラクターとして考えたり行動したりしたことが、プレイヤーの考え方や物の見方にも影響することがあります。実際に子どもたちからは「TRPGを楽しみつつ、楽しんでいる自分を見ている目が自分の中にあった」、「自分とキャラクターの関係は『イコール(=)』でも『ノットイコール(≠)』でもなく『ニアリーイコール(≒)』」、「TRPGの経験は自分を客観的に見る上で助けになった」、「キャラクターは自分じゃないから感情や意図を客観的に説明できる」、などの回答を得ています(Kato,2019)。
こうしたキャラクターとプレイヤーの関係性は海外のRPG研究でも注目されており(カム、2019)。TRPGは多様な特性を持つ子どもたちが他者視点や客観的視点を自分が心地良い形で楽しみながら体験できる活動とも言えます。
■TRPGを通じた子どもたちのコミュニケーションとQOL促進の研究
これまでの筆者らの研究では、TRPGを通じて量的・質的の両方の面で、ASDのある子どもたちのコミュニケーションの促進・変化を確認しています(加藤ら,2012など)。また、TRPGに参加したASDのある10代の子どもたちを対象にQOL(Quality of Life)を測る質問紙調査(古荘ら,2014)を実施したところ、図のグラフのように、参加者のQOLの得点がTRPG活動の前後で有意に増加し、中でも「精神的健康(ウェルビーイング)」「自尊感情」「友だち」の項目の得点が際立って増加しており、TRPGが子どもたちの生活を豊かにする活動となっていることが示唆されました(加藤ら,2016)。
ほかにも、TRPG活動が同年代の他の子とのコミュニケーションや交流機会の成功体験を蓄積できる活動としてASDのある子たちにとって有用である研究(木下・丹治,2022)や、TRPGがASDの成人にとって有意義な社会的交流を行うための安全な空間を提供できていることを示唆した研究(Atherton et al,2024)などが国内外で発信されてきています。

図 TRPG活動前後のQOL総得点と下位領域得点の平均値 (N=51)
■余暇活動としてのTRPGの意義
筆者は子どもたちと関わる際、その活動が治療行為やトレーニングではなく余暇活動であることを大切にしています。そして、余暇とは「余った暇」と書きますが、余暇の場は決して「余った暇」ではなく、家庭(ファーストプレイス)や学校・職場(セカンドプレイス)と同等の生活領域「サードプレイス(第3の場)」であり、自分の「好き」を自発的・主体的に表現し、居心地よく趣味の仲間との交流を楽しむ居場所であると定義づけています(加藤,2021a)。
しかも、TRPGという安全基地が確立して、良きコミュニティにある内輪ネタの楽しい体験(東畑,2019)の共有を通じて、仲間関係が発達し、そのことが同年代との交流に苦手を感じている子でも、そうでない子でも所属欲求が満たされ、子どもの自信や自尊心を支えることにもつながっていきます。
■おわりに――多様な子どもたちが「自分らしく」楽しめるTRPGの世界
筆者が最近重要視していることの1つに、従来の支援や教育の中で起こる「支援する/される」の一方的な関係ではない関係性がTRPGの中で起きているという点があります。TRPGのセッション中は、子どもたちが知識や想像力を発揮して、ボランティアスタッフなどの普段は「支援する立場」の大人たちに、ゲームを進める上でのアドバイスをしたり物語を面白くするアイデアを提案したりするといった「フラットな関係性」が自然と生成されています。
現在、産業分野領域などでは、働く人たちが持つ多様性への対応や活用を目指す「Diversity & Inclusion(D&I)」が注目されています(中村,2017)。
また、学校教育の場でも、インクルーシブ教育やユニバーサルデザイン教育が重要視されつつあります(川俣,2018)。D&Iやユニバーサルデザイン教育・インクルーシブ教育の中では、異なる特性を持つ子どもや大人が共に学び、理解を深める場を提供することが重要視されています。
TRPGは個々のキャラクターが持つ役割(Role)や、ルール・世界観を通じて参加者たちが協働で物語を創造する遊戯であり、特別な支援ニーズを持つ子でもそうでない子でもTRPGの中で自然にコミュニケーションの楽しさを学び、相互理解を進めていくことも可能です。TRPGは多様なニーズを持つ子ども・若者たちが、対人関係を楽しみながら物語を共有・経験するための環境を整えている、いわばユニバーサルデザインなゲームであり、D&Iの視点からも有意義な活動であると言えます。そのことを子どもの教育や支援に関わる臨床家や教員、専門家の方々はもちろん、TRPGを楽しんでいる様々な人たちにも知って貰えれば嬉しいと思っています。
今後も国内外の多くの研究者・実践者によって、子どもたちの自発性や興味・関心を尊重した社会参加やコミュニケーションを楽しむ活動としてのTRPGの可能性が追究されていくことを願っています。
【文献】
Atherton G, Hathaway R, Visuri I, Cross L. (2024) A critical hit: Dungeons and Dragons as a buff for autistic people. Autism.
本田秀夫(2013)自閉症スペクトラム:10人に1人が抱える「生きづらさ」の正体,SB新書.
藤野博(2021)自閉スペクトラム症における特別な興味:研究の動向と展望. 東京学芸大学紀要. 総合教育科学系 72 403-410.
古荘純一,柴田玲子,根本芳子,松嵜くみ子.(2014)子どものQOL尺度その理解と活用:心身の健康を評価する日本語版KINDLR.診断と治療社.
池上英子(2017)ハイパーワールド:共感しあう自閉症アバターたち.NTT出版
石﨑優子(2017)子どもの心身症・不登校・集団不適応と背景にある発達障害特性,心身医学,57(1),39-43.
カム・ビョーン=オーレ(2019)「Nordic Larp」入門:芸術・政治的な教育LARPの理論と実践. RPG学研究. 0,5-14.
加藤浩平(2021a)発達障害のある子ども・若者の余暇活動支援. 金子書房.
加藤浩平(2021b)ASDのある人を対象にした会話型ロールプレイングゲーム(TRPG)を通じた楽しいコミュニケーションの体験. 渡辺慶一郎(編著)自閉スペクトラム症のある青年・成人への精神療法的アプローチ.金子書房. pp.150-162.Kato K.(2019)TRPGs and Autism: From Communication Support to Ways of Self-Expression. Talk Presented at Knudepunkt 2019, Vejen, February 10.
加藤浩平・藤野博(2016)TRPGはASD児のQOLを高めるか?. 東京学芸大学紀要,67(2),215-221.
加藤浩平・藤野博・糸井岳史・米田衆介(2012)高機能自閉症スペクトラム児の小集団におけるコミュニケーション支援 : テーブルトークロール
プレイングゲーム(TRPG)の有効性について.コミュニケーション障害学.29(1).9-17
川俣智路(2018)教えるためのユニバーサルデザインから学びのユニバーサルデザインへ:同質性を強調する「授業」から多様性を認める「学び」へ. 臨床教育学研究.6. 69-88.
木下豪・丹治敬之(2022)テーブルトーク・ロールプレイングゲーム(TRPG)におけるASD及びADHD児のコミュニケーション行動の変容,岡山大学教師教育開発センター紀要,第12号,343-357.
中村豊(2017)ダイバーシティ&インクルージョンの基本概念・歴史的変遷および意義.高千穂論叢.52, 53-82.
東畑開人(2021)居るのはつらいよ:ケアとセラピーについての覚書.医学書院.
あとがき
筆者(加藤)がTRPGを通じて多様な特性を持つ子どもたちと関わるようになり、気づけば15年以上が経ちました。TRPGに参加してくれていた当時中学生だった子どもたちが、今は社会人となってTRPGのゲームマスターになったり、TRPGのシナリオを作ったり、私たちの運営している活動以外の場所やオンラインでTRPGを楽しんだりしてくれています。
また同時に最近は、TRPGやTRPG研究について関心を持ってくれる学校教員や心理職(臨床心理士、公認心理師など)や児童精神科医や
社会福祉士などの支援領域の先生方や研究者の方々も増えてきました。
近年「ニューロダイバーシティ(脳神経の多様性)」という考え方が広がってきていますが、TRPGを通じて子どもたちと関わっていると、TRPGは物語やキャラクターを通じて、本当に様々な人たちの世界をつなぎ、豊かに広げて共有するのことのできる遊戯であることを感じます。
本書『ソウルキーパーズ』も、多様な子どもたち・大人たちに楽しんで貰える「ユニバーサル&ダイバーシティなTRPG」として愛して貰えればと思います。なお、本書も前著『いただきダンジョンRPG』に続き、今回も保田琳さんに共著者として多大なお力添えをいただきました。厚く御礼申し上げます。これからもTRPGを通じて、さまざまな人たちと出会い、一期一会の貴重な物語世界を共有できればと思っております。
TRPGで楽しいコミュニケーション!
加藤 浩平
『いただきダンジョンRPG』に続き、加藤浩平さんと誰でも遊びやすいTRPGは何かと改めて話し合ってつくったシステムが『ソウルキーパーズ』です。今作はいかに初心者が初見でもわかりやすく楽しく遊べるか考え、判定を用いず推測による情報収集や戦闘ルールとなりました。楽しんでもらえれば幸いです!
保田 琳
*このゲームの内容は、科学研究費(18K13213,23K02590)の研究成果を使用しています。
